模様替えとナポレオン


■部屋の模様替え
僕の好きな本の一つに、「暮らしの哲学(ロジェ=ポル・ドロワ著)」という本があります。
行く当てもなく地下鉄に乗ってみるだとか、1000まで数をひたすら数えるだとか、服をたくさん試着するだとか、なんかそういう誰にでもできて、やってみると当たり前のように思っていたことの中に新しい発見があったりなかったり、という本です。
で僕はこれを、どちらかというと企画として、アイデアとして面白い本だと思っていました。そういう、ちょっと変わったエクササイズを集める、というところが面白いものだと。
もちろんそれもあるのですが、改めて最近読んでみてわかったのは、著者のものの見方というか文章というか哲学というかそのへんのことが、そのへんのことも、実はハイライトだった、ということです。
例えば、部屋の模様替えをする、なんてのも載っているんですが、これは誰でもやったことがありますよね。だからこのこと自体はとりわけ目新しさや珍しさはない。でもそれをどうやるか、というところがちょっと新しかったりするんです。What(何を)やるか、ではなく、How(どう)やるか、のほうにウリがある、というか。
部屋の模様替えだったら、自分の使いやすいように、それでいて見た目よく、とかそういう風に考えていくのではないでしょうか。普通。ところがこの本では、
「まず部屋の声に耳を傾けてみましょう」
とくるわけです。
「それぞれの場所がその場所にふさわしい形や物を求めています」と。「ある色を置く。するとまわりの色が変わってくる」、そして、
「あらゆるものがつねに響きあっているのです」…
いわれてみれば。でも模様替えでそう意識したことはなかったかもなあと思いました。
このことは、キネティックダンス(自分の意図ではなく、まわりとの関係で動くことを強調したダンス)や、ピナ・バウシュの言う「人がどう動くかでなく、何が人を動かすかが大切」というのと同じことだと思います。

■ナポレオン
ナポレオンはいわゆる波乱万丈な生涯を送りました。若い頃は誰も見向きもしない、貧しくて陰気な青年将校だったのが、24歳の時に戦で手柄を立てたのを始めに軍人としての天才ぶりを発揮、一気に皇帝としてヨーロッパに君臨するようにまでなりました。戦争だけでなく、学芸の奨励や法律を定めるなどの貴重な仕事も成し遂げます。しかしロシア遠征の失敗などにより今度はまっさかさま、最後には島流しに、とまあ簡単に言えばこんな感じですよね。このことについて、「君たちはどう生きるか(吉野源三郎著)」という(タイトル、ベタでどうかと思いますが、とてもよい本だと思います)本の中で、こう表現されています。
…偉人や英雄も、結局、この大きな流れの中に漂っている一つの水玉に過ぎないことに気がつくだろう。次いで、この流れにしっかりと結びついていない限り、どんな非凡な人のしたことでも、非常にはかないものだということを知るに相違いない。
*「大きな流れ」というのは、人類の進歩の歴史を大きな河に例えたものです。
ナポレオンで言えば、始めの頃は封建制度を打ち倒して新しい自由な世の中を作ろうと努力していた人たちのためになっていた、ということは時代の流れに沿っていたわけです。ところがやがては権力欲みたいなもののために、人々にとってありがたくない皇帝になっていったために没落していった、となるのです。

■時代の声
ええと。
この二つの話は、同じことを言っているように感じたのです。
あらゆるものがつねに響きあっていて、誰もが大きな流れの中に漂っている水玉のようなもので。
だから僕らがまずやってみるのは、自分がなにをしようか、という自分の声に耳を澄ますのもそうなんですが、「時代の声に耳を傾ける」というをおろそかに出来ないなと。
自分がどう動くかよりも、何が自分を動かすか。自分に働く力を意識することも欠かせないなと。
そんなことを感じました。



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